ピアノの可能性を追求し、様々な使用法を試みるうちに、新たなルールが私を縛り始めていたことに気づきました。
しかも皮肉なことに、このルールを作ったのは私です。
自由を求めて旅立ったはずが、気がつけば「このときにはこうしなければならない」と、勝手に決め付けていました。そもそも「ピアノとはこういう楽器なのだからこういうふうに使うべきだ」という思い込みがあったのかもしれません。
再度これを取り払わなければならないと思いました。そのためには一番初めに「これはやらない」と決めていたこと・作る過程で「やらないほうがいい」と思ったことにも、やはり取り組む必要があると感じました。
その先にあったのは、「ピアノとは何か」という答えのない疑問でした。私の無茶な探究心に、いくらでも応えてくれるこの楽器はいったい何なのか。
長い年月を共に過ごしてきた楽器なのに、まだまだ知らないことがたくさんありました。
ピアノであること。限りない自由の片鱗を私に見せてくれたこと自体がそのアイデンティティなのかもしれません。