AX PIANISM|M3 2017秋 一展A-01b UtAGe

誰も知らない、ピアノの限界のその先へ。

前作「PIANISTIQ」による、ピアノの魅力の"再発見"が、自分にとってどれほど刺激的であったか、聴いてくださった方にはきっと伝わったのではないかと思っています。

一方で、私に重い宿題を与えてくれた作品でもあります。新たに追求した可能性をそこで終わらせることなく、自分の手で育てること。楽曲として呈示すること。「ピアノ探しの旅」は始まったばかりでした。

前作で私が試みたことは主に「制限」でした。与えられた条件下で楽曲を作ること。そしてその「縛り」を楽曲の魅力に繋げること。やってみて分かりました。もっとこの楽器はいろいろなことができる。縛り、制限からもっと解放できるんじゃないかと。
自分の中のピアノの世界観が広がった瞬間でした。

私とピアノの関係は複雑です。言うことを聞いてくれたことなんか一度もなく、かといってまったく取り付く島がないというわけでもない。試験やコンクール、演奏会で失敗も繰り返したし、その逆だってありました。
嫌になってやめようと思ったことはただの一度もありません。でも、あと少しだけ自分のものにしたいと常に思っています。今だって…

そんなピアノに対しての一言では言い尽くせない気持ちが、私の"ピアニズム"です。


TRACK LIST

01.
On the Table
作曲:Sebastian
02.
fly step
作詞:カヲル 作曲:Sebastian 歌:ハイ
03.
One Hand
作曲:Sebastian
04.
レクイエム
作詞:ワクオタカフミ 作曲:Sebastian 歌:片霧烈火

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STAFF

01.
On the Table
グランドピアノの譜面台は畳めます。

畳むと平面になるのでそこに楽器を置くことができます。キーボードなどを置いて演奏している場面をご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか?

ピアノという楽器の数少ない弱点の一つが、出した音をその後どうすることもできないところです。一度出した音は減衰を待つのみです。弦楽器や管楽器は、弓や息で音の強さや音色を調整したり、ビブラートをかけたりできます。それに比べると、ピアノが1度出た音に対して出来ることはとても少ないのです。

その問題を解決し、なおかつピアノと同時使用できる楽器の存在に気付きました。
鍵盤ハーモニカです。

鍵盤ならではの敏捷性を備え、息でニュアンスを調整できて、しかも台の上に置けて、片手で演奏可能。これだ!と思いました。
これなら左手でピアノ、右手で鍵盤ハーモニカという演奏が出来る。

オーケストラでは曲の途中で楽器を持ち換えるということがよく行われます。フルート奏者が途中でピッコロを演奏したり、打楽器奏者が複数の楽器を担当するなどです。

先の曲のネタバレになってしまいますが、左手のみで演奏する曲というものを作りました。空いた右手を何かに使えるのではないかと思いました。
別の楽器を演奏できるのではないか。

ピアノだけではできない、でもピアノに座っているからこそできる楽曲です。


02.
fly step
「PIANISTIQのトリセツ」のあとがきに、「ポップスやロックにおいて、ピアノの複数台の使用は応用が進んでもいい分野だと感じています」と書きました。書いたからには実行しなければなりません。

そもそも、ピアノは1台でも十分な音域と表現をカバーできます。同時に最大10の音を出すことが出来て、しかも、運動性や音量に関しても非常に制約の少ない楽器です。そして、同時に同じ音を鳴らしたときに豊かな音色になる他の多くの楽器と違い、同時に同じ音を鳴らすと基本的には音が汚くなるというデメリットのために、本来的にこの楽器は複数使用に向いていないのです。そのため、ギターやその他弦楽器・管楽器と比較してピアノを2台使用するのが難しいのは否定できません。

しかし、その多くの制約を潜り抜けることで、2台のピアノは未知の音楽の地平を私たちに見せてくれるような気がしてなりません。

この楽器の最大の特徴である、高い運動性を活かした、腕2本では実現できない複雑で予測不可能なパッセージ。音の強弱の絶妙なバランスが作り出す和音。そしてピアノを2台使用するからこそ可能な、複雑なリズムパターン。いずれも、「同じ音をなるべく同時に叩かない」「お互いの音楽を殺さないように音域のポジションは譲り合う」という微妙すぎる調和の上に成り立つ危険なサウンドを生み出しています。

そして、低音から高音まで使用できる自由度の高さは、音楽の設計にも多くの恩恵をもたらします。ピアノ1色で多くの濃淡を生み出すことができます。2台で広い音域をカバーすることによって生まれるパワーもまた、未知の魅力といえます。

爽快なピアノポップではありますが、まるでクラシックのように1音1音丹念に配置していくことでしか、この音楽は実現できませんでした。

03.
One Hand
右手中指を骨折しました。

運動中の不注意による事故でした。

ピアノ弾きの端くれとしては、手に怪我をしてしまうというのは全くもって恥ずかしい限りで、ただただ反省するばかりなのですが、幸いにして整形外科の先生の処置で治りも早く、診察即日ピアノの練習の許可も頂きましたし、結果的には演奏の予定に一切穴を空けずに済みました。

でも、転んでもただでは起きません。片手がうまく使えないことを音楽に活かせないか、本気で考え始めたのです。

左手だけで弾く曲というものがこの世の中には存在しています。ラヴェルのピアノ協奏曲が有名です。戦争で右手を失ったピアニストのために書かれた曲で、実際にそのピアニストによって初演されています。

この曲も、左手のみで演奏しています。

右手と左手は構造が左右対称です。なので、得意な動きも左右対称です。しかも長年低音を主に担当しているので、得意なフレーズはも右手と違ってきます。それを踏まえて、「左手らしい」、そして「片手で演奏することで意味のある」曲を目指して作りました。
メロディーと低音、1人2役を左手が担い、鍵盤を縦横無尽に飛び回ります。


04.
レクイエム
ピアノを3台使用しています。
前作「PIANISTIQ」に収録されている「涼風」でも、ピアノを3台使用しましたが、今回まったく違うアプローチを試みました。
基本的に音域をいくつかに分けてポジションとして捉えるところに関しては同じです。でも、前よりももっと音が密集しているように感じられるかもしれません。
今回は合唱や弦の音の配置をモデルに音を置いてみました。歌や弦はそれぞれのパートがメロディとして「歌える」ものであると望ましいとされています(もちろんいろいろ例外はありますが…)

前作の解説でも述べましたが、ピアノ3台の楽曲が非常に少ない理由のひとつが、「2台で同時に同じ音を鳴らすと汚く聞こえる」という、割と致命的な弱点のせいでもあります。特に音が密集しているこの曲では、ぶつかりそうになる場面が多々あるのですが、可能な限りそれは避けなければなりません。

そのため、どうしても物理的に6本の手が全て配置できない場面がありました。また、最大片手で5音まで押せるので、わざわざ6本使う必要のないところもあります。

ということは、片手が何もしない場面がたくさん発生します。

そこで、空いた手を使ってリズムトラックを作れないだろうかと考えました。

20世紀のピアノ音楽は、奏法を拡張する方向に研究が進んでいきました。内部にゴムやボルトを仕込んでみたり、弦を指ではじいてみたり、さまざまな奏法が試みられました。その中には当然のようにピアノ本体を叩いて打楽器として使用するというものもありました。
ピアノを実際に叩いてみると分かるのですが、中に弦やら金属のフレームやらが仕込んでいるので、叩く場所や叩き方によっていろいろな音がします。これも追究しはじめるとなかなか奥が深いです。

この曲では、革靴で床を踏む音と、ピアノの鍵盤の蓋を叩く音の2種類をパーカッションとして使用しています。

ピアノとパーカッションという組み合わせは、お互いの足りないところを補えるとても理想的なコンビのひとつだと思っています。それをピアノだけで表現しました。

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