AX PIANISITY|M3 2018春 二展ス-16a UtAGe

其処にピアノが在るから。

ピアノの可能性を追求し、様々な使用法を試みるうちに、新たなルールが私を縛り始めていたことに気づきました。
しかも皮肉なことに、このルールを作ったのは私です。


自由を求めて旅立ったはずが、気がつけば「このときにはこうしなければならない」と、勝手に決め付けていました。そもそも「ピアノとはこういう楽器なのだからこういうふうに使うべきだ」という思い込みがあったのかもしれません。

再度これを取り払わなければならないと思いました。そのためには一番初めに「これはやらない」と決めていたこと・作る過程で「やらないほうがいい」と思ったことにも、やはり取り組む必要があると感じました。

その先にあったのは、「ピアノとは何か」という答えのない疑問でした。私の無茶な探究心に、いくらでも応えてくれるこの楽器はいったい何なのか。
長い年月を共に過ごしてきた楽器なのに、まだまだ知らないことがたくさんありました。

ピアノであること。限りない自由の片鱗を私に見せてくれたこと自体がそのアイデンティティなのかもしれません。



TRACK LIST

01.
Black Ensemble
作曲:Sebastian
02.
街灯
作詞:カヲル 作曲:Sebastian 歌:ハイ
03.
11
作曲:Sebastian
04.
Places You Are Now
作詞:ワクオタカフミ 作曲:Sebastian 歌:片霧烈火

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STAFF

01.
Black Ensemble
今まで散々、ピアノは同じ音を2台以上で重ねると汚いと言い続けていました。そこに最大限配慮して曲を作っていたのも事実です。

でも本当でしょうか?

2台、3台で重ねて汚いとして、これがもっと多かったらそんなことないんじゃないか...音を重ねないことに拘泥しながら前作”PIANISM”を作っていた際にふとそう思いました。

弦楽器や管楽器は、複数台で同時に演奏することで、微妙な音程やリズムの揺らぎが、かえって重厚感を生み出します。

ピアノは音程がほぼ同一であること、一度出した音は減衰するのみなのでリズムが合わないとバラバラに聞こえることなど、確かに複数台で演奏するのに向かない要素しかありません。でも、もっとたくさんあったら、それこそ同時に10台で同じパートを演奏したら...

計算を始めました。オーケストラをモデルに様々な役割のピアノがそれぞれ何台ずつくらいあれば美しい響きを作れるかと。

この曲は8パート、計40台のピアノによって奏でられています。ピアノという楽器の特徴を活かしつつ、でもお互いを潰さないように。

ピアノも重ねることで濃淡を表現することが可能でした。ピアノ1台でも、3台くらいあっても、表現できない、ぎっちり詰まった音になりました。

おそらく世界に類を見ない、新発見のサウンドです。


02.
街灯
実はこれ、全部ピアノ(と人間)です。

ピアノから出る音を加工して、様々な音色を作り上げて楽曲にしました。

このシリーズの制作当初、電気的な音声の加工を前提とする楽曲は制作しないと決めていました。どこを境界線とするか難しい話なのですが、ライブ演奏が物理的に不可能な楽曲は作らないというのが当初の方針でした。

でも、作っているうちにやはりこれも私の不満を引き起こしました。そこにある可能性を最初から否定するのはどうなのだろうと。大体、今までの思い込み、当たり前の使い方から離れてみようという試みだったのに、どうして試してもいないことを最初から排除したのか…

ピアノの音色、性質を散々研究したからこそ作れる楽曲があるはずと、設置したばかりの防音室に篭り、ピアノのあらゆる音を録音しました。

必要な素材を全て1から作り上げ、足りない部分は演奏者である私がピアノに座った上で出せる音を用いて、この楽曲は完成しました。



03.
11
入門者や子供が人差し指だけでピアノを弾いている場面に出会ったことがあると思います。実際にそういうことをした方も多いのではないでしょうか。

この曲は両手の人差し指のみで演奏しています。意外に2本だけでも色々できるのです。

昨年左手だけで演奏する「One Hand」を作ってから考えました。自由度の高いこの楽器だからこそ、どんなに制限してもその中で可能なことは意外に多いのだと。

指を2本しか使えないというのは、両手のすべての指を使って演奏するピアノにとって、究極の制限といえるかもしれません。それでも、左右の手のやりくりで、音楽を成立させることは十分可能です。

子供の頃、指1本で鍵盤を押さえて音が鳴って喜んでいたことを思い出します。ある意味、自分の音楽の最も根源的な部分に立ち返った曲といえるかもしれません。


04.
Places You Are Now
これまでピアノの可能性を追求して様々な試みを行ってきました。

まだまだ私の知らないこと、試していないことはたくさんあることでしょう。まだゴールではないかもしれません。

でも、自分なりに得たものを一度形にまとめてみたいと思いました。

これまでの試みで、こんな使い方をすればこの楽器はもっと輝けるかもしれない。そんな可能性にたくさん出会いました。それを一つの曲に込めたくなりました。

この曲はピアノ3台構成です。「レクイエム(”PIANISM“に収録)」で試みたように、靴の音と、ピアノの蓋を叩く音でパーカッションを表現し、曲の途中では、「On The Table("PIANISM"に収録)」のように、左手はピアノ、右手は鍵盤ハーモニカという箇所も登場します。

この曲で新しく試みたことは特にありませんが、私の旅の集大成といえる曲です。

ひとまず、この曲で私のピアノ探しの旅は一区切りとなります。でも、これで終わりではありません。いつかまた、皆様にお付き合いいただきながら、あてのない旅に出ることと思います。


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